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福岡高等裁判所 昭和49年(ツ)19号 判決

上告人

井上岩男

被上告人

藤野惣吉

主文

一、本件上告を棄却する。

二、上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由は別紙のとおりであるが、論旨は要するに、上告人が永年被上告人所有土地上に存在していた通路を通行していたのは袋地所有者である上告人の民法第二一〇条に基く囲によう地通行権によるものであつたのに、これを被上告人の前主の好意による事実上の通行にすぎないとし、被上告人が所有権取得後右通行を妨害するため為した違法行為を看過し、上告人主張の通行権を否定した原判決は、法令の解釈を誤つたものであるというにある。

袋地所有者は公道に出るため囲によう地を通行する権利を有することは所論のとおりであるけれども、右通行の場所及び方法は囲によう地のため損害の最も少ないものを選ばなければならないのであるから(民法第二一一条第一項)、通行地役権の場合と異り、囲によう地通行権による通行の場所は特定の囲によう地の特定の場所に不変のまま存続するものではなく、囲によう地所有者がその用法にしたがい右土地の使用方法を変えるときには、囲によう地のため、より損害の少ない他の場所に移動することを余儀なくされることもあり得るものであつて、結局囲によう地通行権確認訴訟は口頭弁論終結時における民法第二一一条第一項の要件を充足する道路は何れかを確定するものであると解するのが相当である。

原判決は、上告人主張の通路は、被上告人の前主当時まで、袋地所有者である上告人が永年平穏に通行の用に供していたものであるけれども、原審口頭弁論終結当時右通路上には被上告人が建物を建築しており、上告人は他の囲によう地を所有者の承諾を得て通行の用に供している事実を確定し、後者の通行が囲によう地のため最も損害が少ないものとして、前者の通路に対する上告人の通行権確認請求を排斥したものである。

したがつて原判決に措辞必ずしも正確でない部分のあることは否定できないけれども、上告人がその主張の通路を通行していたのは上告人の囲によう地通行権に基くものであつたとしても、口頭弁論終結時には被上告人の右通路の存する土地の使用状況の変化により、上告人の囲によう地通行権により通行できる場所が移動したという前記法理に副つたものであつて、法令解釈を誤つたものではない。

よつて本件上告は理由がないものとして棄却を免れず、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(佐藤秀 諸江田鶴雄 森林稔)

上告の理由〈省略〉

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